近年、少子化や地方の過疎化により、お墓や先祖供養に対する考え方・価値観が多様化してきています。先祖代々受け継いできたお墓に、これからも子孫が続いて入るというスタイルが当たり前のものではなくなってきているのです。
そこに登場してきたのが「墓じまい」という考え方です。墓石を撤去して墓地に返還し、お墓を新たな場所に移すあるいは別の供養方法を考えるというものです。
ただ、お墓は勝手に遺骨を取り出したり、解体撤去したりしていいものではありません。しかるべき手順を踏み、きちんとした手続きをして、可能なものとなります。
そこで今回は、墓じまいの基本的な流れとやるべきこと、費用相場などを詳しく見ていきましょう。
墓じまいとは何か
近年よく聞くようになったことば「墓じまい」とは、「現在のお墓を解体・撤去して更地にし、その使用権を墓地の管理者に返還すること」をいいます。
その際、お墓から出した遺骨は、別の場所もしくは別の形で供養する(散骨など)ことになります。
なぜ、墓じまいを考える人が増えたのか。それは時代背景にもよります。
「少子化により先祖代々の墓を継承・管理する人がいない(もしくは近い将来いなくなる)」「お墓が遠方にあって管理が大変」といった理由から、お墓の将来について考える人がたくさん出てきたのでしょう。
また、価値観の変化というのも理由に挙げられます。
昔は「先祖代々、家族みんなが入るもの」「子孫が世話し、受け継いでいくもの」と考えられてきました。しかし近年は「お墓にはひとりで入りたい」「無理してお墓参りをする必要を感じない」「子や孫にお墓の管理で負担をかけたくない」といった多様な考え方が出てきたことも、墓じまいを考えるきっかけとなっているのでしょう。
墓じまいの進め方
親族に相談する
お墓の管理方法については、親族全員が関わりのあることです。なかには墓じまいに反対という人もいる可能性があります。ひとりで勝手に進めず、事前に必ず関係者全員に連絡・相談をするべきでしょう。
お墓をなくしてしまってからトラブルが起きても、もう取り返しはつきません。前もって例外なく了承を得ておくようにしましょうね。
現在の墓地管理者に連絡・埋葬証明書の発行依頼
現在のお墓の管理者に、このたびの墓じまいについて連絡します。
管理者とは、お寺であれば住職、公営・民間霊園であれば霊園管理事務所、共同墓地の場合は墓所の管理組合もしくは当番制で地域住民になっていることもあります。それぞれ当てはまるところにまず連絡です。
後者ふたつであればほぼ問題ありませんが、お寺の墓じまいの場合は、代々檀家としてお世話になったこともあり、事情や理由を丁寧に伝えましょう。のちのちトラブルになり、法外な離檀料を請求されるような事例もあります。
事情の説明とともに、「埋葬証明書」の発行を依頼します。埋葬証明書とは、遺骨が納められていることを証明する書類で、「改葬許可証」の取得のために必要なものです。
※「改葬」…遺骨を移動させること
新しい納骨先を決める
元々のお墓から、新しく遺骨を移す先を決めます。生活の場から近くにある別の霊園や納骨堂、永代供養をしてくれる施設に移すほか、手元供養、樹木葬、散骨など最近では選択肢も数多くあります。
生活スタイルや考え方によって、今後の供養のしかたをよく考え、遺骨を移す場所を決めましょう。
新しい納骨先と契約を完了したら、「受入証明書」の発行を依頼します。これは遺骨の受入を証明する書類で、やはり「改葬許可証」取得のために必要なものです。
お墓の解体工事依頼先を決める
お墓の解体は、一般的には石材店に依頼しますが、家屋などの解体業者が請け負ってくれることもあります。お墓の管理者に提携している業者などはないかどうか、まずは確認してみるといいでしょう。
自治体で「改葬許可証」を取得する
まずはお住いの自治体で「改葬許可申請書」を手に入れます。これに、すでに取得している「埋葬証明書」「受入証明書」を添えて、お墓の所在地の役所に提出すると「改葬許可証」が発行されます。
改葬許可証は新しい遺骨の受入先の管理者に渡すものですが、手元供養や散骨などで遺骨の受入先が新たに存在しない場合は必要ありません。とはいえ、自治体によって扱いが変わることもあるため、自己判断せずに確認してみることをおすすめします。
遺骨を取り出す
墓石を物理的に解体する前に、儀式として「閉眼供養」を行います。地域によっては「魂抜き」、「お性根抜き」と呼ぶところもあるようで、これを行ってから遺骨を取り出します。
お墓の撤去
墓石を解体・撤去し、基礎部分までしっかり取り除き、敷地を整地して墓地の管理者に返還します。しっかり整った状態で返還できるように、解体終了後は立ち会って確認するようにしましょう。
新しい遺骨受け入れ先に納骨
受入先の墓地などに新たな墓石が必要なのであれば、その用意も必要になります。最終的に新しい受入先には遺骨と、改葬許可証を渡すことになります。これで墓じまい・改葬はすべて終了です。
墓じまいの費用目安
墓石の解体・撤去工事費用
実際に墓石を解体・撤去する作業の費用目安は、1平方メートルあたり10万円というのが目安となっています。
ただし、状況次第では費用にもだいぶ差が出てきます。たとえば、「狭くて重機が搬入・使用できず手作業が増える」「墓石の形が特殊」「墓石が大きい・墓石の量が多い・墓域が広い」などの要素があると、相場より高くつくことになります。
手続きにかかる費用
前述したように、墓じまいには「埋葬証明書」「受入証明書」「改葬許可申請書」「改葬許可証」といった書類を申請・取得するシーンがあります。
このときの手数料は、自治体によって差はありますが、大体1,000円前後と考えておけばいいでしょう。
墓所へ支払う費用
元々の墓地での閉眼供養、新しい墓地での開眼供養などで、僧侶に支払うお礼が発生します。相場は2~5万円程度で、普段の法要と同じくらいだと考えておけばいいでしょう。
ただしこちらは地域差などでかなり幅があります。不安な場合は周囲の人に相談してみることをおすすめします。
離檀料
檀家としてお世話になってきたお寺を離れる際、慣習として払うのが離檀料です。これは、言うならば「お世話になってきたお礼」なので、金額に決まりはないうえ、支払わなければならないという法的根拠もなく、あくまで「気持ち」です。
それなのに残念ながら、法外な金額の離檀料を請求されるような事例もあります。そのような場合は、しかるべきところに相談しましょう。
まとめ
・墓じまいとは、お墓に対する考え方や価値観の多様化から、お墓を移動させたりお墓自体をなくしてしまったりすることである。きちんとした手順を踏むことで可能になる
・元々の墓地からは「埋葬証明書」、遺骨の新しい受入先からは「受入証明書」、自治体からは「改葬許可申請書」を手に入れ、最終的に「改葬許可証」を取得する
・墓石自体の解体は、石材店などの専門業者に依頼すべき
・墓じまいにもそれなりのまとまった費用はかかる。墓じまい自体するべきかどうするかという相談はもちろん、費用を誰がどう出すかということも、親族・関係者全員で相談しておかなければならない
お墓に対する考え方も現代化してきています。新しい先祖供養のしかたのひとつとして、墓じまいについてしっかりと知っておきましょう。